上司と部下の関係は永遠の課題だが、幹部候補生(「High
Potential」)を部下にもつ上司と幹部候補生に同じ質問をして異同を見るというヒューイットの調査がある。「Talent
Pulse」という幹部候補生の能力開発・動機付けを考えた論文で一部を紹介している。この調査結果を基に少し考えてみた。
同論文では、幹部候補生(「High Potential」)は、業績最優秀者「Top
Performer」とほぼ同義で、同じ組織階層で傑出した結果を出している人のことである。
幹部候補生には(直属上司について述べた)以下の短文に賛否を6段階で答えてもらった。(「当を得ている」、「概ね現状を言い当てている」、「どちらかと言われれば、当たっている方」、以下略)そのうち上位2つの回答の割合を集計。上司には同様の短文を使って自己評価を求めた。なお、上司は、部下が全社的に認められ、選抜された幹部候補生だと承知している。結構難しい立場で、軽々に「思いつきでものを言う」わけにはいかない。部下も自分が幹部候補生と承知しており、自負と期待がある。「幹部候補生制度」を採っている(!)会社の多くは、候補の数を絞り込んでおり、管理職になるより難しいのだから、自負も期待も相当高い。
| 上司のマネージメント能力は十分に信頼するに足る |
62% |
自分のマネージメント能力には十分の自信をもっている |
91% |
| 上司は、首尾よく職務を遂行するのに必要なサポート(フィードバックやコーチング)を提供 |
49% |
自分は、部下が首尾よく職務を遂行するのに必要なサポート(フィードバックやコーチング)を提供 |
74% |
| 自分がどういう知識・スキルを身につけて行くべきか、上司はこの点に十分注意を払っている |
41% |
部下がどういう知識・スキルを身につけて行くべきか、自分はこの点に十分注意を払っている。 |
67% |
| 自分の能力開発にとって好い機会があれば、上司は、どのようにチャンスをつかみ、活かすか、適切に指導してくれる |
35% |
部下の能力開発にとって好い機会があれば、自分は、どのようにチャンスをつかみ、活かすか、部下に適切に指導している |
66% |
| 上司は、自分の努力と実績をしかと把握 |
58% |
自分は、部下の努力と実績をしかと把握 |
66% |
| 上司は、自分のもつ知識・スキルの内容・強みをよく理解してくれている |
60% |
自分は、部下のもつ知識・スキルの内容・強みをよく理解している |
83% |
| 上司には、自分が職業人としてもっている様々な目標をよく理解してもらっている |
46% |
自分は、部下が職業人としてもっている様々な目標をよく理解している |
66% |
| 上司は、自分の職務・キャリア目標の達成を支援してくれている |
45% |
自分は、部下の職務・キャリア目標の達成を支援している |
73% |
幹部候補生の上司評価と上司の自己評価の乖離が最も少ないのが、6番の「努力と実績」で8パーセントポイントである。これは業績評価が相当数量化されているためである。
乖離幅が一番大きいのは、4番の「能力開発の機会に関するガイダンス」で31パーセントポイントである。幹部候補生としては、自己の能力・スキルを高める、また会社で日の当たる重要なプロジェクトに自分を推薦・参加させてくれ、と願っている。上司としては、部下を率いて自分の職責を十二分に全うして成果を上げなければならない。日本的な脈絡で言えば、出来る部下を手元に置いて放さず、重大プロジェクトへの参加機会を握りつぶしてしまう・・・といったことだろう。上司は、部下の能力開発より、部とか課という自分の率いるユニットが成果を上げることを優先せざるを得ないとも言える。
乖離が次に多いのは1番の「マネージメント能力」(29パーセントポイント)だが、マネージメント能力には、部下の能力開発・育成が入っているから、つまるところ、部下の能力開発とユニットの実務遂行の相克である。8番の「職務・キャリア目標の達成支援」(28パーセントポイント)も、自己の能力開発目標も十分勘定に入れて、目標を広くとらえる(幹部候補生)か、実務遂行上の目標に焦点を当て狭くとらえる(上司)の違いと考えられるので、4番と同じことである。日本でも、名上司とは、公私に亘って親身に指導・鍛えてくれる上司だから、幹部候補生に限らず部下の期待は、能力開発支援にある。
ではどうすれば好いのか。上司に幹部候補生の能力開発に力を入れろと徹底させるのか。これがあまり度を過ぎると、実務から離れた失敗のない「お客様コース」ができ、現場を知らないエリートが生まれる。幹部候補生の場合、少なくとも2~3年で職務内容を見直し・変更する場合が多いとのことだ。なら日本のキャリア官僚と同じだ。革新や新しいアイデアの創出には馴染まない。
では重大な案件を幹部候補生に全面的に委ねたらどうか。やり甲斐があり成長機会のある実務ではないか。まだ「候補」に重大案件を任せて失敗して、会社の屋台骨にひびが入ったらどうする!
結局はバランスの問題で、解決策は、上司の側が部下の期待を十分に理解した上で、期待にそえない場合もあると説得することだろう。また、幹部候補生になったところで、世界は自分を中心に回っているのではなく、相手の立場と負っている責任に配慮することが必要である。
人事の世界にも流行があり、「High
Potential」もそうだ。問題提起、つまり、いかにしてリーダーを発掘・育成するかは多とするが、問題解決の基礎は常識だ!(了)
文責 石井 滋